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1話-シエラside

 

「本日を以て諸君は全盟全書に定められた、国民が修めるべき第四の項、の全てを修了した。
ローゼント王立図書館、王属司書、ルーベントハークより労の言葉を贈る」

見渡す限りの高原を男の声が飛び去ってゆく。

声の主は布で覆われた生誕モニュメントの上から、此方を、隊列を見下ろす。
直立する人々の合間を抜けて行くのは微風。

丘陵の向こうには蒼と白。その背部には無数の星。
波打った緑の大地。ごろごろと転がる、ウィングスパンよりも大きなガラス質の丸石。

男が喋らない間、この場所は無音となる。
誰一人として言葉を、音を発さない。

雲の流れにより辺りが陰り、再び明度が戻る。

「地球人、改めエルメル。ここに新たな名を授け、諸君を正式な国民として我がリベルトレイドに受け入れる事を宣言する」

男の声が雷鳴のように轟く。衣類の端が微震する。
また、王属楽団の合奏が声を追うようにして開始される。

次いで、モニュメントを覆っていた布が、流速の速い風を伴って昇華する。
薄い白煙の向こうに見えるのは、高さにして百メートル程の多角柱モニュメント。

男の声を除いて無音であったこの場に、多くの感嘆の声が生じる。

喜びだと思われる感情を露わにする人が多く在ったが、そうでない人も少なくない。
初期フェーズでこの世界へ召喚された者の親族だろうと勝手に予想する。

最適化の成されていない方法での言語再獲得は人体に致命的なエラーを引き起こしてしまう。
後に多数召喚されるであろう地球人を救う為の窮策である事は大半が理解していた事だが、そこに完全に折り合いをつけられた人がどれだけいるというのだろうか。

俺は召喚直近の、両親の訃報を知らされた時の事を思い起こしてみる。
言語を失い知的レベルが後退していた為に記憶が朧げではあるが、自らの担当だった衛生管理官に暴力を振った事を覚えている。

召喚より十年経った今でも、様々な事に折り合いをつけられない人は大勢居るのだろう。

それから暫くして後、王属楽団の旋律は様々な感情の余韻を場に残したまま、静かにフェードアウトした。

 

 

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