現在、継世を執筆中です。https://ritsuri.com/novels-list/tsuguse

11話-シエラside

「今日の授業、どう思いました?」

横でハレがルナリカに話しかける声が聞こえる。

「難しかった。けど、それよりも一つ気になる事が。
あれ、完全にエルメル向けの内容だったよね。宇宙とか、この世界の人は知らないでしょ」

「それは私も気になりました。
質疑応答で誰一人としてそこに疑問を持つ人が居なかったと言う事は、事前に何かしらの情報共有があったという事なのでしょうか」

「私もそう思う。あとは新生種族に対してのある程度の優遇がリベルトレイドでは常識になっているとか。
どちらにしても自分の知らない共通認識があるというのは少し落ち着かないな。ただ帰宅時間が早いのは私好みではある」

「リベルトレイドでは王属以外は皆学生ですからね。勉学ばかりに比重を置くという訳にもいかないのでしょう。
その分、内容の理解は課題によるところが大きいみたいですね。

それにしてもやっぱり遠いですね。学校を出てからここまで帰ってくるのに一時間くらいは掛かったでしょうか」

「本当に、そこは私もいただけない」

ルナリカは嘆息を含んだ声色で言う。

「なにか移動手段が欲しいな。
族名授与式の時に金を貰っただろう、四人分を合わせれば安い車なら余裕で買えるはず」

ハーツが言う。その意見に皆が賛同する。

「休日にでも買いに行こうか、ダレンメルテでも買えるのか調べておかないと」

俺が言う。

それからホテルの裏手に辿り着くと、外周を正門までまわる。

「そういえばこのホテルのすぐ近くに、白砂浅水ってありますよね。
私、行ってみたいです」

いざ門扉を通過しようという瞬間、ハレが言う。

「ああ、前に一度だけ行ったよ。綺麗な場所だった」

俺が答える。

「よし、皆さん行きましょう。決まりです」

ハレに片腕を引っ張られるハーツ、ルナリカの双方とも否定的な態度はとっていない。
ホテル正門より踵を返し、右前方の小綺麗な林道へと向かう。

葉の密度の薄い、南国によく見られるような樹木の合間を抜け、僅かに膨らんだ土盛り越える。
微細な木片の敷き詰められた焦げ茶色の足下が、白色の砂へと変わる。

「確かに。これは綺麗だな」

ハーツが言う。

目前に広がるのは広大な水たまり。彼方には廃都市の輪郭が浮かぶ。
水深はどこも膝丈程であり、水底には純白の砂と所々には水苔が群生している。

僅かな水面の起伏がキラキラと光を照り返す。足下を悠々自適に泳ぎ去って行く銀色の小魚。

「入っても大丈夫かな」

ルナリカが呟く。

「大丈夫だよ。ただ、所々水深が深い所があるからそこだけは気をつけて。
水の流れは無いから溺れるって事は無いと思うけど」

「元々はなん為の場所だったのでしょうか」

ハレが言う。

「この場所で飲み水を作っていたみたいだよ。
この砂と苔は人間にとって有害な物質を見つけると、それを消滅させる働きがあるらしい。
人体には何の反応も示さないらしいから、触れたところで何も心配はいらない。

もう少し奥へ進んだ所に、この池について色々説明のある大きな石板が沈んでいるんだけど、そこまで行ってみようか」

それから皆で、靴を脱ぎ、ズボンを捲り、水の中に足を沈める。
水温は非常に低い。

「これ、ほんの少しだけど光ってるな」

ハーツは水底の砂を掌に広げ言う。

「そう、だからここは夜になっても明るいんだよ」

俺が答える。

「へ~、それは素敵」

ルナリカが言う。

岸辺より五十メートル程進むと、水中に沈んだ黒色の石版が見えてくる。
四辺が五メートル程の正方形で、小さな礫の混ぜられた石材を原料として作られている。

上に乗ると、足裏にはしっかりとした硬質な感触が伝わる。

「この砂、定期的にロボットが敷き詰め直しているんですね。それは見たことありますか」

ハレが尋ねる。石版に掘られた説明を読んだのだろう。

「無いな。確か一ヶ月に一回くらいの頻度だったよね。
わざわざ待ってまで見たいものじゃないよ」

「それもそうですね。ここもそうですけど、ホテルもその奥の廃墟も色々な機能が生きているように見えますけど、一応人は住んでいないんですよね」

「そう聞いているけど。もしかしたらリベルトレイドからすれば、この都市の使用エネルギーくらい微々たるものなのかもしれない。
それか、この都市が独立したエネルギー生産設備を持ってるのか」

「そういえば、ホテル直下の大きな機械構造、あれって何の為のものだか御存じですか?」

ハレが後方の立木の、その後ろに見えるホテルを指差す。

「存在は知っていたけど、その用途は分からないな。中央の噴水に関係するものだとは思うんだけど」

「始めは私もそう思いました。でも実際に降りて確かめて見れば違ったんですよ。
あれはですね、ホテルそのものを三百六十度回転させる為の機構です」

「ホテルそのものを?」

「そうです。恐らく宿泊客に景色を楽しんで貰う為でしょう」

「いつ調べたの?」

「今朝早くです。ゼンハードさんのしてくれた話を色々と考えていたら、気がついた時にはもう日が昇っていまして、どうせ眠れないならと思って色々と探検してみたんです。
そうしたらホテルのロビーの奥の部屋で地下に続く階段を見つけまして、その先にあった機械を良く観察したら分かりました」

「まだ薄暗かったでしょう、怖くなかった?」

「それは怖いですよ。でも、どうしてもじっとしていられなくて。進路にある全ての明かりを付けながら進行しました」

「起こしてくれれば良かったのに」

「じゃあ、次からはそうしますね」

ハレは始終、音の高低を豊かに話す。半ば歌っているようにも聞こえる。
それでもわざとらしく感じない所以は何処にあるのだろうか。

「おい、こっちまで来てみろよ」

離れた所からハーツの声が聞こえる。

振り返って見れば、石版の後方をかなり進んだ所にハーツとルナリカが立っていた。
ハレと共にそこまで歩いてみる。

「ほら、ここから先かなり深くなってる」

ルナリカが少し先を指で示す。
確かに、正確な水深までは窺えないが、そこより先はかなりの深さがあるように思える。

「俺、ちょっと泳いでくる」

ハーツが言う。

「私も行きます」

ハレが言う。ルナリカも同調する。

「じゃ、俺も行こうかな」

俺が言う。

少し進むと、水底は途端にくだり、足先が支えを失う。
着衣は水圧に押され、これでもかと体表にまとわりつく。

服を着たままの遊泳は危険であると知識にはあるが、この世界にきてより体力が向上した為か、いざ泳いでみればそれ程の抵抗は感じない。
そこから更に奥へと進むと、水底に幾つか沈む正体不明の構造体が確認出来た。

「あそこまで潜って見るか」

ハーツが言う。

「肺活量が増していますから、それほど難しくはないと思います」

ハレが答える。

皆が見据えるのは、十メートル程の下方に沈んだ円筒形の物体。
特に複雑な構造はもっていない。

実際に潜水して確かめて見れば、それはなんてことはない家屋の残骸であった。
内部には用途不明の道具が取り残されている。

「そろそろ戻るか」

ハーツが言う。確かに、空は既にオレンジ色を帯びている。

「流石にはしゃぎすぎました。結構疲れますね」

ハレが言う。

それから皆で浅瀬に戻り、ホテルへと帰る。
体の芯では、どこか懐かしいような心地よい疲労感がふわふわと浮かんでいた。

 

 

目次へ戻る

 

Advertisement