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5話-シエラside

 

遠方から一定の間隔で響く金属音。槌で鉄を打ち延ばす巨人、そんな奇想が浮かぶ。
午後の光は窓に切り取られ、枠型より少し傾いた影を床に落としている

木板に厚皮を被せただけの固い椅子から立ち上がり、窓の外を眺める。
王国船では中々見ることの出来ない空と、その下に広がる背の低い工場群、その成れの果て。

動物は皆無であり、生物といえば錆びた建物を覆う苔と、石畳の間からひょいと顔を出す雑草くらいである。

時計に目をやると、約束の時間が十分後に迫っていた。
族名授与式より一ヶ月。今日が所属、学部を宣告させる日である。

部屋の廊下を通り、直結されたエレベーターに乗り込む。
十二畳程の大きさを持ったそれは、不気味なほど静かに降下を開始する。

元はホテルであっただろうこの建物には、一体どれだけの人が泊まれたのだろうか。
階数表示板のカウントを見ながら、ふとそんな考えが浮かんだ。

このホテルが単純な立方体であったならば、計算も容易いだろう。
しかし、この建造物は非常にユニークな造形をしていた。

円筒を斜めに切り落とした、言わば門松のような形をしているのだ。
中心部には直径三百メートルはあろうかと言う噴水。一度だけ降りて散策をした際には、随所に遊泳場の特徴を見る事が出来た。
恐らく双方の役割を兼ねていたのだろう。

俺が住居として選んだのは、円周の一番高くなっている場所に位置する個室。
最上階を丸々使用しており、最も宿泊料金の高かった部屋だと思われる。

噴水を挟んで反対側、一番低くなった円周部分には、蝶番でさえ俺の背丈を越える両開きの門。
現在はそれが開きっぱなしになっている。

目的階への到着を知らせる電子音が鳴り、扉が左右へと除ける。

待ち合わせの男はホテルの入り口、向こう側へと開いた鉄扉の左壁に寄りかかるようにして立っていた。
短く切った頭髪に黒縁のシンプルな眼鏡。濃灰色のつなぎに、見るからに重たそうな厚皮のジャケット。
葉巻のような物を咥え、手帳か、本かを眺めている。こちらには気がついていない。

「お待たせしてすいません。本日約束を頂いたシエラ、オルヴェールです」

距離が一定まで近づいた所で声を掛ける。

「サンシュタイン、ゼンハードだ。それにしても随分な所に居住配当されたな。やる事無いだろ」

男は何かのケースに葉巻を押し込みながら言う。

「いや、えぇ、まぁそうですね」

ゼンハードの表情は一切変わらない。

「お前の学部は初等総合学部三類だ。配当校舎は当然この先の白里学園になる。クラスメイトは殆どが同年代になるだろう。
所属は船内急襲作戦分隊第三班。俺は同分隊の第一班でお前たち三班の教育を受け持つ事になる。
授業は明日から始まり、訓練は二週間後から始まる」

「一つ宜しいでしょうか」

ゼンハードが話を切ったので、右手を軽く上げ質問の許可を求める。

「もっとフランクでいい。効率が悪い」

「承知しました。船内急襲作戦分隊とはどこの隷下部隊でしょうか?」

「王国船六番艦最高責任者、ツェヴァリア、レーンガン氏の直下だ」

「それは、誕生間もない種族が就くような部隊なのでしょうか?」

「レーンガン氏がそう決めた、それだけだ。種族がどうのとか年季がどうのとかそういう話じゃない。
ただ、第一班として俺が引き受けた任務の多くは、失敗すれば大変なものばかりだった」

ゼンハードは言ってから笑って見せる。

「何か守秘義務のようなものは存在しますか?」

「当然。お前達の表向きは白里南方第七対空哨戒班だ。
人前ではそれを名乗れ」

俺は了承の言葉を口にする。

「この後、船内急襲作戦分隊第三班のメンバーがこの場所に集まる手筈になっている。
班員は全部で四人。皆エルメルだ。さっきお前に話した内容は既に伝えてある。

さて、時刻丁度に来るよう言ってあるから、もう到着する筈だ」

 

 

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