現在、継世を執筆中です。https://ritsuri.com/novels-list/tsuguse

7話-リリアside

「これで全ての項目が終了した。すまないね、随分と予定を遅らせてしまった」

私の顔を見るなり、ミラが言う。

解析器に設けられた急な階段を降るが、途中で段を踏み外し、前方へ倒れ込むようにしてバランスを崩してしまう。
右手で手すりを掴み、体勢を整えようと試みるも、握力が足りずにそれは叶わない。

ミラの手が咄嗟に私の二の腕を掴む。ミラは少しの苦労も感じさせない様子で私の全体重を支えると、そのまま床面に下ろす。
私が感謝の言葉を述べると、ミラは素っ気なくそれ答えた。

それから皆で再び研究所の端部へと向かう。ミラが人数分の椅子と解析結果が書かれているであろう用紙を手に持ってくる。

「結論から言わせて貰おう、レイスも良く聞いてくれ。
君らを私の知人にエルメルであると紹介する事は不可能だ」

ミラは微塵も表情を変えぬまま言う。

「と言うと?」

レイスも単調に返す。

「体の構成がエルメルのそれとは全く異なると言う事だ。これではどんな手段を講じてもエルメルであると証明する事は出来ない。
加えて、二人は既存のどの種族にも分類する事が出来ない。これは中々に深刻だ、少なくとも私が知っている限りでは君らが族名を貰う事の出来る国は存在しない」

「それは困った事になった」

レイスが言う。

「レイス、こうなると方法は限られる。簡単では無いが、絶望的という程でも無い筈だ。
王属であれば、実力を除いてあらゆる条件が看過される。権利においても上回る事はあれど不足は無いだろう」

「そうだね、そうするのが一番良さそうだ。そうなれば私たちは結構力になる事が出来ると思う。
リリア、ルビア、聞いての通り二人をエルメルとしてリベルトレイドに紹介する事は出来ない。
そこで、二人が王属を所得する為の手助けをさせて欲しい」

「それは、是非お願いしたい」

私が答える。姉も同様の言葉を述べ、それから感謝を伝える。

「良かった。ミラの言うように決して簡単とは言えないけど、絶望的という程でも無い。
学者に分類される王属を目指すのであれば、二人は有利だと思う」

「当面はどう動く?」

ミラが言う。

「まずは自衛の手段をもって貰う事が先決だと思う。シェダーシューンの所を訪ねて助力を貰おう。
ミラ、解析の結果からしてエクステリアの被依存係数はどれくらい許容出来る?」

「レイス、それは不可能だ。二人の体は剥理結晶の自然微少離散を補完するのがやっとな程に脆弱だ。
つまり解離性亜生命が必要になる。その点シェダーシューンに助力を請うのは賛成だ」

「後は、ルビア達には異系間ゲートウェイ操作をある程度使いこなせるようになって貰おう」

レイスが言う。

「結構な適正を持つとされるエルメルですら、六年経った今でその修了率は半分を切るんだ。
一体どれくらいのスパンを想定して言っている」

「ざっと一ヶ月」

「レイス、思考のアーキテクチャも分かって無ければ、それに準じたカリキュラムの最適化も済んでいない。
それらを最短で用意したとして、それに要する日数が大体一ヶ月だ。どんなに甘く見積もってもその期間では無理だ」

「カリキュラムは私達のものを使えば良い、私の端末にまだ当時のデータが残ってる。
それに数理モデルを基底としたプログラムであれば、適正とのシナジー次第では習得速度を大幅に早める事だって出来る」

「私はそれらを加味した上で言っているんだ。だが、私が言ったのはあくまでも一般論に過ぎない。
レイスがそう評価するのであれば私はそれに従おう。加えてもう一つ、留意すべき事柄が存在する」

レイスは先を促すように相槌を打つ。

「さっき、二人は剥理結晶の離散と補完が均衡状態にあると説明した筈だ。
これはつまり何らかの出来事が原因で離散量が増加した場合にそれを修復する術を持たないという事になる。
これを解決する方法は私が知る内では一つだ、双領域中間体による接続、人間の場合は手首になる」

「そうか、それは少しだけ、外見上あまり宜しくない事になる。
隠す事は可能だけど、それにしてもかなり不便だ」

レイスはまるで独り言のように呟く。

「リリア、ルビア、手錠は知ってるかな?」

レイスの問いかけに、私と姉は揃って首を縦に振る。

「双領域中間体とは、外見で言えば正にあれの事だ。
機能としては、二つの状態記述領域がそれぞれ持つ恒常性を、そいつが橋渡しになる事で、互いに影響を及ぼせる様にする事が出来る。
不思議な所はね、結果として発揮される恒常性の総量が双方の和よりも、ほんの少し大きくなると言う所なんだ。
故に一人では離散量を補うのがやっとだとしても、そいつを使う事で少々のマージンを作る事が出来る」

「それは丸一日、片時も外さずにつけておかないといけないもの?」

ルビアが尋ねる。

「いや、大雑把な計算だが、週の合計が五時間に収まる程度であれば外しても問題無いだろう。
無論、外ささないに越した事は無いが。日常で生じる不便については私たちで可能な限り善処しよう」

ミラが答える。

「ものは私が用意しよう、幾つか作成した経験がある、二週間もあれば十分だろう。
材料は既に揃っているし、作成に必要なデータは解析結果で事足りる」

ミラが付け加える。

「それはありがたい。ミラ、ありがとう」

レイスが言う。ミラは何も答えない。

「私たちは時間も時間だし、そろそろ帰宅しよう。
ミラ、こっちはこっちで異系間ゲートウェイ操作に向けた準備を行う事にする」

「ああ、それが良い。時間は万物の糧になる万能のリソースだからな、少しも無駄には出来ない。
こちらも何か変化があれば連絡を入れる」

ミラは少し笑ってみせる。

研究室を出るとき、レイスに倣って私も、姉もミラに手を振る。
ミラは、その姿が目視出来る内ではずっと此方を見送っていた。

 

 

目次へ戻る

 

Advertisement