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17話-リリアside

トンネルの出口が、やはり車高の二倍分だけ持ち上げる。車の接近を何かのセンサーで感知したのだろう。
その向こうからは昼光色の光が差し込んでいる。また、幾本か立ち並ぶ大きな柱のような構造物が見て取れる。

車はシャッターの下を通過し、入り口と同じ二十メートル程の足場の、辺の数メートル手前で停止する。

「どうぞ」

レイスが言うと、後方の姉側のドアがゆっくりと自動で開く。
私と姉は互いに動きを合わせ、鎖に余計な張力が掛からぬようにと慎重に座席を降りる。

足場の奥、上下左右へと視界の限りまで広がるのは単純立方格子で組まれた鉄骨。
しかし、その一本一本は鉄骨と表現するには随分と大きく、横断面にして一辺が三十メートル程はあるだろう。

また、所々には床材が敷かれ、その上には朽ちた建築物が乗っかっている。

「ここは明るいね」

姉が呟く。確かに、時間帯問わず光量の小さいレイバレリーに比べれば、ここは地球上で言う午前中程の明るさがある。

「随所に光源と誘光ケーブルが設置されているからね。普通はどこのブロックでもそうしてるんだ。
三番街もダグラスメイフも明るかっただろう。レイバレリーが例外だ」

レイスが言う。

私は恐る恐る縁に近づき、下を覗き込んでみる。
下方には、雲海とまではいかないものの、疎らに浮かぶ雲を確認出来た。

「久しぶり」

唐突に聞こえる女性の声。ミラの言っていた護衛に該当する人物だろう。
だとすれば二人いる筈である。

私は縁を後ずさるようにして離れ、振り返る。

「こんにちはエメル、どこにいたの?」

レイスが言う。

女性が二人立っている。片方は背が高く平均的な男性を少々上回る程の背丈がある。
また、もう片方は私たちよりは大きいがレイス等よりは低い程度である。

背の低い女性、恐らくエメルは青みの入った銀髪を低い位置で結び、何処かの学生服であろう衣服を身に付けている。
背の高い女性は毛先が耳の中程で止まる程の短髪であり、白目の比率が大きな目が特徴的である。また服装はエメルと同じである。

「上に登っていて、見知った車が見えたから降りてきたの」

エメルは言いながら上方の鉄骨を指さす。
隣に立つ背の高い女性はまだ一言も喋らない。

「ルインも、今回はよろしくね」

レイスがその背の高い女性のものであろう名前を呼び、右手を差し出す。
ルインはああ、とだけ言うとレイスのそれに応えた。

「お二人がリリアさんとルビアさんですか?」

エメルが此方に体を向け、言う。
姉がはいと答え、私は首肯する。

「本当にとってもかわいい。シェダーシューンの言っていた以上だよ。握手をしても?」

そう言ってエメルが手を差し出したので、私たちはそれに応える。

「私はエメルと言います。エメル、アルトメーヴです」

エメルは言ってから微笑む。頭部後方左右のボリュームの多い髪束が傾げた頭に沿って揺れる。

「私はルイン、アルトメーヴ」

ルインがエメルを迂回して私たちの横へとやってくる。
それから膝を突くようにして屈み、少し低い所から私たちの目を覗き込む。

「よろしく」

ルインは言うと私の左手の甲を、それから姉の右手の甲を、自らの片手でそっと包みこむ。
その手は細く長く、また体温は非常に冷たい。

「二人は兄弟?」

私は尋ねる。

数秒、ルインはキョトンとした表情を浮かべ、それから腹に手を置き笑い出す。
ルインの手が離れた箇所には、まだその冷たさが残っている。

ルインは一頻り笑うと一度大きく息を吐き出し、再び私たちの目前で腰を屈める。

「私たちは結婚してるんだよ」

ルインの声色は幼子に投げかける際のそれである。

「あなたの性別は女性?」

私が再度尋ねると、ルインは再び笑い出す。

「彼女、こう見えても感情の起伏が激しいの」

エメルが言う。

「この世界では同性間の結婚は頻繁に行われている。生殖の条件が雌雄一対では無い事が大きな原因だろう。
一般的に二人以上六人以下の同種という条件で生殖が可能だ」

ミラが言う。

「だから二人ともアルトメーヴなんだ。子供はまだいないんだけどね。
この世界では男性に頼らずとも子供を作る事が出来る。なんなら私たち六人で子を成す事も可能だよ」

ルインは笑うことに疲れたとでも言うように、ゆっくりと神妙に喋る。

「今日はいい日だね、エメル」

ルインが言うが、エメルは何も答えない。

「えっと、レイス。通信中継塔はリアクターの防爆壁に囲まれてるじゃない。
入り口がある反対側まで迂回するのかな」

エメルはレイスに言う。

「いや、ここから直下の中途建設エリアから進入しようと思う。
防爆壁はリリアとルビアにどうにかして貰う」

「分かった。そうしたら車をここまで持ってくるから、少し待っててね」

エメルは言うなり跳躍すると、二百メートルはあろうかという上の梁まで、たったの数秒で到着する。
途中で二度、速度が不自然に変化したのはツェカーデ深部の効力を用いたからであろう。

「凄い」

私と姉の言葉が被る。

「今のくらいなら出来る人は多いよ。
そうか、ツェカーデ深部も然りだけど、実際に目にするのは初めてなのか」

レイスの言葉に私たちは揃って首肯する。

「因みに、二人がツェカーデ深部を使えるようになる可能性はあるのかな?」

ルインが訪ねる。

「無理だろう。まず器官が存在しない。
有ると仮定したって体が加速度に耐えられない」

ミラが言う。

上方では梁より車体の底面が飛び出し、数十秒の降下を経て、私たちの目前で静止する。

「そうしたら、もう行く?」

開いたウィンドウから、エメルが顔を覗かせ言う。

エメル達の車はレイスのものと比べると二回り程も小さく、座席とドアが共に二つしか存在しない。
ボディはフロント下部の極細楕円グリルから車体後部まで一貫して流線型をしており、赤い色も相まって非常に活動的な印象を受ける。

「随分と速そうな車だね」

姉が言う。

「うん、でもレイス達の車の方が速いよ。
そもそもドライバーの出力が全然違うから、単純に比較は出来ないんだけどね」

エメルは言うと、右手で運転席右正面のパネルを忙しなく操作する。

「そうしたら出発しようか。リリア、ルビア、車に乗ってくれ」

レイスは言うと車体右側の後部に移動しドアを開く。私が先に座席へと乗り込み、姉が後に続く。
私たちの着席を確認したレイスはゆっくりとドアを閉め、それから車体前方に移動して運転席に座りドアを閉める。
ミラも助手席への搭乗を完了する。

レイスが車を始動させる。右側にはエメルの運転する車が並ぶ。

「レイス、準備は出来ているそうだ」

ルインの手信号を受け取ったミラがその意図をレイスに伝える。

車が氷上でも滑るように前方へ移動する。それから車体全部が梁の外へ飛び出した頃合いで、降下を開始する。
右側のエメル達の車とは一寸の差も無く動きが同調している。恐らく自動運転の類いだろう。

降下の速度は、私たちが不快感を感じない程度の加速度で増加して行く

梁が一本、前方で上へ流れて行く。二本。三本。四本。五本。
降下速度はこれ以上増加しないようである。

それから十分ほど降下した後、降下速度が減速、それから移動は水平方向へと切り替わる。
一キロほど進んだところで再び降下を開始する。

視界に映る建造物数は増加の推移を辿る。
下方へ行けば行くほど中途建造物の数は増えるのだろう。

「さあ、もう着くよ」

レイスは言うと、車の降下速度を緩める。
下方に見えるのは広大な床材とその上に立つ工場物群。

レイスは床材の内、比較的障害物の少ない場所に車を停止させる。
数十秒遅れて、右隣にエメル等の車が止まる。

左側のドアが開いたので、今度は私から下車をする。

「大丈夫?」

降りる事に手こずっていると、此方に回り込んでいたエメルが私に手をさしだしてくれる。
私は礼を言い、その掌を支えにして体を降ろす。

エメルの上腕は私の体重の過半くらいでは微塵も上下しない。
ルビアもエメルの助けを借りて下車をする。

「さてと、ここからは抗体と遭遇する確率が高い。エメル、ルイン警戒をお願いするよ」

車から降りたレイスが言う。

「もう用意はしてある」

そう言ってルインが自らの胸の高さでひらひらと振って見せたのは、回転式拳銃に良く似た、恐らくは武器。
私たちの視線に気が付いたルインが、此方に歩み寄り、その武器であろうものを水平に構える。

私は両掌を上向きに差し出そうとするが、手首に添えられたルインの指先によってその動きは逆行する。

「君たちじゃ二人がかりだって持てやしないよ。見るだけにしたほうがいい。
これは射出筐体という武器だよ。剛体を高速度で発射する事が出来る」

ルインが言う。

私たちは頷くと、それを注視する。

幾分か後方へと傾斜したグリップと、指の位置にはトリガー。私の前腕ほどの太さがあるシリンダーと、その先に伸びる銃身。
銃身は直径にして三センチ程で、形状は縦長の六角形、長さは三十センチ程。

地球上で言う拳銃に酷似した武器であるが、スケールという意味では別物に感じる。
或いはルインのもつ武器が該当するようなカテゴリーがあったのかも知れないが、私の知識には無い。
ルビアを見るが、首を横に振っているので同様だろう。

「私のも見せてあげる」

そういってエメルが差し出したのは、ルインのものと比べると大分小さな武器。

「これも射出筐体?」

ルビアの問いにエメルは首肯する。

色はルインのものと同じく銀色、筐体上部にシリンダーは見られない。
銃身は楕円筒で、全体的に華奢な作りである。

「見せてくれてありがとう」

私が言うと、二人はそれを構えるのをやめる。

「よし、じゃこれから建物の中に入って行くけど、リリア、ルビアは私たちの元を絶対に離れないでくれ。
行きがけに説明はするけど、この内部には抗体と呼ばれる攻撃的な機械が存在するからね」

レイスが言う、私たちは了承を帰す。

「行こうか」

ミラがそう言って歩き出した。

 

 

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